2012/02/18

日本サッカーの東南アジア進出をまとめた。


1月6日に、3月の開幕戦からJリーグがタイ、インドネシア、ベトナム、マレーシアの4カ国の地上波テレビで毎週放送される(うち月2回は生中継)ことが決まった、というニュースが流れました。続いて217日、Jリーグがタイ・プレミアリーグと連携協定を締結。選手の移籍の促進、新たなスポンサー獲得を目指すと報じられました。

これらは日本のスポーツビジネスにとって注目すべき流れであると思います。なぜなら、こうして日本のスポーツ・コンテンツが戦略的に海外に輸出しようとしたケースは今まで皆無と言っていいからです。


今回は、加速しているようにみえる日本サッカーの東南アジア進出を、「個人(選手・指導者など)」「組織(Jクラブ・リーグ・協会など)」の2つの見方からまとめようと思います。





 ※その前に「東南アジア」について。

「東南アジア」とは、中国より南、バングラデシュより東のアジア地域を指し、ミャンマー・タイ・ベトナム・ラオス・カンボジア・マレーシア・シンガポール・フィリピン・インドネシア・ブルネイの諸国を含む、と『Wikipedia』『三省堂 大辞林』にはあります。
この東南アジアにおいてJリーグの地上波放送がタイ・インドネシア・ベトナム・マレーシアの4カ国なのはなぜかということですが、人口を見てみると東南アジア全体の70%ほどの4億人をカバーすることになり、なるほどと納得させられる数字です。

1.インドネシア:2億3000万人
2.フィリピン:9400万人
3.ベトナム:8400万人
4.タイ:6600万人
5.ミャンマー:5000万人
6.マレーシア:2700万人
7.カンボジア:1500万人
8.ラオス:600万人
9.シンガポール:500万人
10.ブルネイ:40万人








【「個人」の東南アジア進出】



「個人」というレイヤーで見た場合、Jリーガーが東南アジアに進出することは近年急増し、珍しくなくなりました。先日引退した元ベガルタ仙台の財前宣之が2009年にタイへ移籍したことを草分け的存在として、中堅のJリーガーが次々と東南アジアのクラブへ活躍の場を求め始めました。ジュビロやヴェルディで活躍していた河村崇大は現在もタイでプレーしています。また先日引退をした元日本代表DFの宮本恒靖にもタイのクラブへの移籍話がありましたね。また、アルビレックス新潟は、シンガポールの国内リーグであるSリーグにアルビレックス新潟シンガポールというチームを2004年に創設し参戦しています。

未確認ですが、タイでプレーしている日本人選手の数はすでに50人を超えているというツイートを見かけたこともあります。日本人選手の実績が質量ともに重なってくることにより、東南アジアは選手にとって身近になりつつあるようです。



選手以外はどうかというと、指導者の東南アジア進出もここ数年で活発になってきていることが、日本サッカー協会のレポートから読み取れます。日本サッカー協会は「アジアを引っ張るリーダーとして、アジアのサッカーの普及・発展に貢献したい」考えを示し、代表監督・ユース世代の監督・育成コーチなどを様々な国に送り込んでいます。またここにはない、個人の判断での動きというのは相当数あるでしょうし、岡田武史元日本代表監督のように中国に挑戦する人たちも増えてくると思います。









【「組織」の東南アジア進出】



「組織」というレイヤーで見た場合、まずは「日本代表」「Jリーグ」「Jクラブ」といった層に分解することで分かりやすくなると思います。




1.日本代表

「日本代表」は日本サッカーが最も分かりやすい形で世界に発信しているコンテンツです。しかも非常に効果的。プロリーグを設立してから5年でW杯に出場するなど非常に急速な発展を見せた日本はそれ自体で注目に値する国ではありますが、一昨年のW杯のグループリーグ突破や昨年のアジアカップ優勝などの活躍は、世界中に良く映っているようです。それはもちろん東南アジアでも同じようで、親日という背景やアジアのトップとして世界と伍している構図が日本代表の注目を上げているのだと考えられます。昨年9月にマレーシアにあるAFC(アジアサッカー連盟)を訪問したのですが、日本の活躍をアジアの成果として捉え、誇りに感じているというお話が多くあったことを覚えています。




2.Jクラブ

順番が前後しますが、「Jクラブ」はなかなか東南アジアへ進出できない、難しい立ち位置にあると言えるでしょう。地域密着という理念を掲げて存在しているクラブである以上、他国へファン増を求めて進出することには「まずホームタウンで集客しろよ!」といった大きな反発が予想されます。チェルシーやマンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリーやバルセロナといった欧州のクラブは毎年プレシーズンの時期にアジアツアーを敢行し、新たなファンやプレシーズンマッチの入場料収入を獲得する「出稼ぎ」に来る光景は珍しくなくなりました。けれどもこれは既に世界中にファンが散らばっているようなグローバルクラブにおいて可能なことに思え、Jクラブが同じことをできる体力はないでしょう。今後Jクラブが東南アジアに進出するとしたら、それは
ACLで戦う

②アルビレックス新潟シンガポールのように『支部』的なチームを置く

③丁度いい(自分たちより少し強い)相手としてプレシーズンマッチに呼ばれる

④東南アジア人がクラブにいるので、その凱旋試合を組む

といった、ややグローバルなクラブとは異なる戦略と環境づくりが必要でしょう。③に関してはベガルタ仙台がバンコクで行われる親善試合「トヨタプレミアカップ2011」に招待されており、タイの2011年の3冠王者ブリラム・ユナイテッドと18日に対戦するようです。 
http://www.newsclip.be/news/2012213_033635.html

僕は②と④に可能性を感じますね。




3.Jリーグ

そして「Jリーグ」はまさに今回のエントリで取り上げたいところです。まずはニュースをいくつか読んでみましょう。





asahi.com:Jリーグ、東南アジアで放送 「クールジャパン」目指す
http://www.asahi.com/sports/update/0105/TKY201201050634.html

今季のJリーグが3月の開幕戦から東南アジア4カ国の地上波テレビで毎週放送される。タイ、インドネシア、ベトナム、マレーシアの4カ国との間で正式に交渉がまとまり、近く理事会に報告される。
放映権料は当面無料だが、代わりにJリーグは現地放送局側からCM枠やスポンサー枠を獲得することで収入を得る。すでにアジア市場を重視する日本企業への打診を始めている。映像はJリーグ側が制作し、現地で実況・解説などを加える。月2回は生中継もする。「日本のスポーツコンテンツを戦略的に海外に 売り出すのは初めての試みではないか。将来的に放送を希望する局が増えれば、市場原理によって放映権料の方もビジネスになっていく。まずは市場を開拓する 意識で取り組みたい」とJリーグ幹部は話す。
 これまでもJリーグの試合は、衛星放送などでは有料で海外放送されていた。しかし、この分野では欧州勢の人気が圧倒的。例えば、英イングランドのプレミ アリーグは世界200カ国以上で放送され、リーグ所属の20クラブは海外向け放映の分配金だけで、それぞれ年間約1800万ポンド(約21億5千万円)を 受け取る。Jリーグが得ている放映権料は、リーグの年間収入120億円余りの1%未満にとどまっている。
 ただ、東南アジアでは日本代表の活躍や、東南アジア各国でプレーする日本人選手の影響で、日本サッカーの認知度や評価が高まっており、地上波での無料放送なら新たに参入する余地があると見て、Jリーグは交渉を続けていた。
 Jリーグを漫画やアニメと並ぶいわゆる「クールジャパン」にしていこうという狙いもある。関西学院大の奥野卓司教授(情報人類学)は「韓流ドラマは国の 後押しで海外進出したが、Jリーグの場合、チームや選手の活躍といった自然発生的な広がりが背景にあることが、日本の漫画やアニメと同じで強みになり得る。格好いい存在として日本という国や日本製品のイメージアップにつながる可能性は十分にある」と話す。(編集委員・忠鉢信一)





NHK NEWSweb:Jリーグ タイのリーグと協定

サッカーJリーグは、新たな市場で選手の移籍の促進やスポンサーの獲得を目指そうと、17日、海外のリーグで初めてタイの国内リーグと協定を結びました。
開幕から20年を迎えたJリーグは、チーム数が40にまで増え、増大する運営費の確保や、選手の移籍先の開拓が課題となっていて、初の海外の提携先として、日系企業が多く進出し、日本とのつながりも深いタイを選びました。
首都バンコクにあるホテルの会場では、17日、Jリーグの大東和美チェアマンと、タイプレミアリーグのビチット・チェアマンが協定書を交換しました。
記者会見で大東チェアマンは「日本がさらに強くなるためにも、アジアのサッカーのレベルを引き上げていくことが必要だ。日本が持つノウハウを惜しみなく伝えていきたい」と述べました。
両リーグの間では今後、親善試合の開催や選手や審判などの交流、それに選手の移籍の促進などを行っていくほか、タイでは、今シーズンからテレビでJリーグの試合を放送するということです。
Jリーグは、今後、インドネシアやマレーシア、それにベトナムとも同じような協定を結び、さらにネットワークを広げていくことにしています。




Jリーグ公式サイト:タイプレミアリーグ(TPL)とのパートナーシップ協定締結について

パートナーシップ協定内容
(1)両国におけるサッカーならびにリーグの発展に必要な情報の交換
(2)リーグやクラブの運営管理に関するノウハウの共有、セミナーの開催
(3)コーチ、審判、選手、医療、競技運営、アカデミー、マーケティング事項に関する交流/視察/研修プログラムの実施
(4)両リーグ所属クラブ同士によるフレンドリーマッチの実施
(5)ユース世代の大会・フレンドリーマッチ、合同トレーニングキャンプ等の実施
(6)両国選手の相手国リーグでのプレー機会の創出、促進
(7)マーケティング領域における協力
(8)両国リーグの相手国での放送ならびに露出拡大に向けた協力
(9)クラブレベルでの提携の促進
(10)タイ国への社会貢献活動実施の協力





Jリーグの公開資料でJリーグの収支を見てみますと、収入がこの10年でほぼ変わらず伸び悩んでいる状況が読み取れます。基本的に黒字は出し続けているものの、リーグ運営の支出は10年前と比べ1.5倍に増加し、その分をクラブへの配分金や管理費を抑えることでカバーしているようです。


国内の観客動員や放映権など、収入が増加しない状況を踏まえて外へ新たな市場を求めるというのは、Jリーグに限らず日本の組織のマネジメントを考えたとき、自然のことと言えるでしょう。



Jリーグ公式サイトには、今回のタイとのパートナーシップ協定内容がありました。

中でも重要なものは、第一にはやはり、(7)マーケティング領域における協力があるのではないでしょうか。分かりやすいのは地上波テレビ放送で東南アジア企業からCM・スポンサー収入を得ることです。

Jリーグ側は「日本にスポンサードしている」という日本ブランドを東南アジア企業に提供します。「我々(東南アジアの新興企業)は先進国である日本へ進出した!」というアピールを東南アジアの人々に向けてできる環境を与えるのですね。

東南アジア側は逆に、「東南アジアに進出したい日本企業」にPRの環境を提供できます。Jリーグとしてはこの狙いも充分持っているでしょう。どちらの国でも大人気のサッカーというメディアを通じて両国の経済活動を活発化させようという絵が見えます。また、そもそも国内のサッカー環境はまだまだ未整備の東南アジア諸国にとって、Jリーグが(1)(2)(3)のようなノウハウを存分に提供してくれることは期待されているものと思いますね。



第二には、連携がうまく回り始めた暁には、更に深い協力体制を築いていける可能性を感じることです。
東南アジア4カ国でのテレビ放映権料は、当面は無料。これを有料にしていく施策が今後求められますが、その施策として「東南アジア選手の獲得」が肝になってくるでしょう。
今では日本でスポーツニュースに海外サッカーが流れることは当たり前になりましたが、そのきっかけは、1998年の中田英寿のセリエA・ペルージャへの移籍にあります。中田の出場試合を観たい人は多く、WOWOWやスカパーなどの有料放送局を中心にテレビ局は試合の放映権を競って購入。日本人のサッカーへの関心度やリテラシーは急速に高まりました。


これと同じことを、アジアにおいてJリーグはやりたいのでは。

どこかのJクラブが東南アジア人選手を獲得し活躍させれば、きっとそのクラブは東南アジアにおいて注目度が最も高い人気クラブとなるでしょう。そのクラブの試合放送は多くの企業がスポンサーに名乗りを上げ、複数のテレビ局が放映権を獲得したいと思っている。そんな状況ができて、初めて放映権料は有料となっていきます。







民放での放送が決まり、パートナーシップ協定が締結されるところまできましたが、現状においてこのJリーグの東南アジア進出戦略には課題が多くあります。

まず、Jリーグはすでに現地で放映されているイングランド・プレミアリーグ、スペイン・リーガエスパニョーラ、欧州チャンピオンズリーグなどとコンテンツの面白さにおいて競争しなければなりません。世界のトップのレベルにあるとはいえないJリーグが、これらの魅力あるコンテンツに勝てる要素は何でしょうか。現状ではほぼ見えません。



これは、先ほどの「東南アジア人選手の獲得」が大きな意味を持ってくる理由です。中田英寿の例から、自国選手がレベルの高い舞台で活躍することには大きな関心が寄せられることが分かりますが、東南アジアの国々のサッカー選手のレベルは、世界でいえば上の下くらいまで来た感のある日本に比べまだまだ低いのが現状です。FIFAランキングで言えば100位から150位くらいの弱小国。20位くらいの日本の選手のように、欧州へ行って結構な割合で活躍する環境にはない。東南アジア人と欧州リーグは、繋がっていないのです。

Jリーグが欧州リーグに勝てる部分はここです。「断絶のある東南アジアと欧州をJリーグという回路で繋ぐ」ことができます。東南アジアのサッカー選手に、Jリーグというハイレベルのリーグに移籍し活躍できる、さらにはJリーグを踏み台に欧州のトップリーグまでステップアップしていく夢を与える。この魅力をJリーグが持てるなら、何にも変え難いアドバンテージだと思います。



ただし、現状での東南アジア人選手がJリーグに行ってすぐ活躍できるかというと、実力・言語・その他様々な環境から難しいものがあります。その課題に取り組んでいるのが、Jリーグ元年からガンバ大阪で12年間在籍し、昨年はタイでプレーしていた木場昌雄氏です。木場氏はタイでプレーした際に、タイ人選手の身体能力の高さ、また環境面でそれらの資質を伸ばせていないことを感じ、昨年9月に東南アジアからJリーガーを誕生させるため、「Japan Dream Football Association(以下JDFA)」という社団法人を立ち上げ活動しています。東南アジアでサッカー教室を開催し、スカウティングを行い、日本の代理人やJクラブなどへ選手獲得を働きかけていく。JDFAの活動はNIKE Japanなどが支援しており、今後こうした東南アジア選手への注目度は高まっていくものと思います。実を結ぶことを期待したいです。






Jリーグの戦略は、こうしたJクラブのそれぞれの活動や、木場氏が創設したJDFAなど個々人の活動の成果に依存しており、その点は「早急」や「場当たり的」との批判を免れないと思います。また、もし東南アジア選手を獲得し大人気となるクラブがあっても、Jリーグの放映権料は『均等分配』されますので、クラブの開拓努力はほぼ報われません。そんな状況では自分たちから東南アジア人選手を育て獲得するコストをかけようというクラブは現れないでしょう。しかしながら、「アジア全体のサッカーのレベルを上げることが、日本サッカーにとってのレベルアップにも繋がる」という立場を前提とした野心的な取り組みは、こんにちの日本になかなか発揮できていないリーダーシップを取ろうというもので、私はその点は高く評価したいです。










以上、日本サッカー(主にJリーグ)の東南アジア進出の動きをまとめてみました。今後の経済活動は人口40億人のアジア大陸にシフトするといった大きな予測があり、その時代の流れを追い、リードすべしといった態度を見せる組織が日本のスポーツ界にもあるんだということは、スポーツ好きな私にとってとても嬉しいことであります。東南アジアに旅行して、その先で現地の人たちとJリーグについて熱く語れるような日が来るかもしれないですね。







参考にした記事等です〜。勉強させて頂きありがとうございます。



山本昌邦「Footballマネジメント」



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Japan Dream Football Association





2011/11/17

クアラルンプールから見据えるアジアサッカーの未来。


 


先日行われた2014年ブラジルW杯アジア3次予選で、ともに敵地での戦いではあったものの、日本は北朝鮮に0-1で敗れ、韓国はレバノンに1-2で敗れました。FIFAランキングで言うと、アジア最高の17位のチームが124位に敗れ、31位のチームが146位に敗れているということになります。FIFAランキングの算出方法についての議論は置いておくとして、「アジアの下位チームが急速に強くなってきている」そう感じる方は多いのではないでしょうか。

今回は、日本の目線ではなく、アジア全体の目線からサッカーを記述してみます。



クアラルンプールにあるアジアサッカー連盟を訪問してきました

FIFAという組織のことを知らない人はほとんどいないと思います。試しに80を超える祖母に「フィファって知ってる?」と聞いてみたら「サッカーのワールドカップ」って返ってきた。うん、まったくその通りで、FIFAは国際サッカー連盟といって、4年に1度のあのW杯を主催している組織です。これってすごい知名度と浸透度なんじゃないだろうか?

では、「AFCって知ってる?」と聞くとどうなるか。恐らく何の組織を指すのか分からない人が大半でしょう。「アジアサッカー連盟って知ってる?」という聞き方でも微妙だ。「アジアカップを主催してる」とか「FIFAの下にある組織」と答えられたらその人は立派なサッカーフリーク。ドヤ顔していい。まだAFCは知名度が低いように思います。

けれども、AFCは今後の世界における「発展するアジア」を考える上で、とても注目すべき、非常に面白い組織です。経済が急成長するアジアという地域で、世界で最も愛されているスポーツであるサッカーを扱う組織。まだ情報が不足している面はあれど、僕らはもっとAFCの動向に注目していくと良いと思います。サッカーに興味の無い人も含めて。


僕は早稲田大学で、元日本サッカー協会専務理事の平田竹男先生の研究室に所属しています。その平田先生のご厚意で、9月にマレーシア・クアラルンプールへ行き、アジアサッカー連盟(Asian Football Confederation、以下AFCで統一)を訪問することができました。とても貴重な経験ができたので、そこから学んだことを入れて、AFCやアジアサッカーについてまとめました。

AFCとは、

①アジアならでは、範囲の超広い発展途上の組織
Competition(大会)で稼ぐ
Development(普及・育成)に使う

こんな組織です。





①アジアならでは、範囲の超広い発展途上の組織

僕らが漠然と抱いているアジアのイメージってありますよね。「アジアは広大で、人種のるつぼで、文化も宗教も多様である」という感じ。こうしてみるとアメリカと同じようなイメージですがw

AFCもまさにそんなイメージ通りの組織です。サッカーは世界的にピラミッド型の組織構造をしていて、FIFAという国際統括団体がトップにあり、その下に6つの大陸連盟がある。AFCはその大陸連盟のうちの1つですね。世界中で行われているサッカーの、アジア部門をすべて引き受けているという感じです。ちなみにその6つの大陸連盟のそれぞれ下に日本サッカー協会のような各国の協会が置かれ、AFCには46の国と地域の協会が加盟しています。

さらに言うと、実はAFCは地域別に4つに分けられています。東アジアサッカー連盟(日本や韓国、中国などはここに所属)、南アジアサッカー連盟、西アジアサッカー連盟、ASEANサッカー連盟の4つです。これには多分に政治的な思惑が絡んでくるわけですが、今回は割愛。




そしてこの4連盟、46協会を考えると、AFCは世界で最も広い地域をカバーしている連盟なのです。特に東西に広いことで、パレスチナなどの西の端から東はオーストラリアまで、実に9時間の時差があります。これは他の大陸連盟にはないアジア独特の問題で、そもそもAFCを西25と東21で分割するかーなんて話も出ているそうです。アジアには現在でも40億人もいるわけで、それをサッカーという一つの文化の下に統括するのは大変ですね。






Competition(大会)で稼ぐ

AFCに課せられた主な仕事は、アジア地区におけるサッカー国際大会を開催することです。サッカーには代表チームとクラブチームという2つがありますが、どちらもAFCの管轄です。


代表チーム大会の開催
 
(FIFAランキングとAFC内での順位、2011年11月17日現在)

FIFA AFC内  
FIFA AFC内  
17 1 日本
145 24 トルクメニスタン
20 2 オーストラリア
146 25 レバノン
31 3 韓国
149 26 イエメン
42 4 イラン
151 27 マレーシア
70 5 中国
156 28 香港
73 6 ウズベキスタン
158 29 フィリピン
81 7 ヨルダン
160 30 インド
91 8 イラク
162 31 モルジブ
92 9 カタール
164 32 パレスチナ
96 10 クウェート
166 33 台湾
98 11 サウジアラビア
167 34 モンゴル
101 12 バーレーン
170 35 ミャンマー
103 13 オマーン
173 36 パキスタン
106 14 シリア
176 37 カンボジア
113 15 UAE
177 38 スリランカ
114 16 タイ
181 39 ラオス
124 17 北朝鮮
184 40 アフガニスタン
130 18 タジキスタン
186 41 キルギスタン
134 19 ベトナム
187 42 グアム
139 20 シンガポール
191 43 マカオ
140 21 インドネシア
197 44 ブルネイ
141 22 バングラデシュ
199 45 ブータン
144 23 ネパール
201 46 東ティモール



代表チームでは、これらの大会を開催しています。

  FIFAワールドカップ・アジア地区予選
  AFCアジアカップ
  オリンピック・アジア地区予選
  AFCチャレンジカップ(2006年創設、2年に1度)
  AFC U-19選手権
  AFC U-16選手権
  AFCフットサル選手権
 (※選手権は「チャンピオンシップ」と呼ぶこともある)


上の3つまではみんな良く知っていますよね。現在進行形で行われている2014年ブラジルW杯に向けたアジア地区3次予選(タジキスタン・北朝鮮・ウズベキスタンと争っています)や、1月のアジアカップでの日本代表の劇的な優勝劇は記憶に新しいですね。あれらはAFCが開催しています。FIFAじゃないですよ。

AFCチャレンジカップは、AFCアジアカップに出場できるほど強くない、アジアの下位国のためのアジアカップみたいなものです。AFCに加盟している国の中で、FIFAランキングが下位16位である国に参加資格があります。

女子サッカーももちろんAFCが行うところで、このAFCチャレンジカップのみが女子にはありませんが、その他は男子と同じ大会が開催されています。
ちなみに先日、女子のU-19選手権で日本代表が優勝を収めました。なでしこジャパンのW杯優勝に続いて、女子も今非常に良い流れになっていますね。
Young Nadeshiko set Asian standard

U-19U-16ってなんだかハンパな年齢で分けてるな、と思うかもしれません。これはFIFAが開催するU-20ワールドカップ、U-17ワールドカップという国際大会に合わせたものになっています。各大陸のU-19選手権で良い成績を収めた国が、翌年に「同じメンバーで」U-20ワールドカップに挑むことができる仕組みというわけです。

サッカーの国際組織は、フットサルも行っています。アジアにおいてはイランが異様な強さを誇っており、それに日本やウズベキスタンが挑むという構図になっています。



クラブチーム大会の開催

一方、クラブチームでは、これらの大会を開催しています。

  AFCチャンピオンズリーグ(ACL2003年創設)
  AFCカップ(2004年創設)
  AFCプレジデンツカップ(2005年創設)
  AFCフットサルクラブ選手権


ACLは、アジアにもヨーロッパのチャンピオンズリーグのような最高峰のクラブチームが集いしのぎを削る大会を作ろうとしているもので、Jリーグからは4クラブが出場している大会です。今年は11/5に決勝戦があったのですが、韓国の全北現代モータースとカタールのアルサッドという対戦カードで、日本はベスト16に鹿島アントラーズ、名古屋グランパス、ガンバ大阪、ベスト8にはセレッソ大阪のみだったという残念な結果になっています。クラブチームがアジアで勝てないこと。ここに現在の日本サッカーの大きな課題があると考える人は多いです。

AFCカップとAFCプレジデンツカップは、代表におけるAFCチャレンジカップと同じ構造をしています。ACLに出場できるのは強いクラブチームを持つランキングの上位14カ国で(もちろん日本も入っています)1528位の国々のリーグ戦とカップ戦の優勝クラブつまり28クラブが参加できるのがAFCカップ。29位以下の国々から12カ国を選抜して、その国のリーグの優勝クラブが参加できるのがAFCプレジデンツカップです。日本においてはアジアの大会といえばAFCアジアカップしか見えていませんが、こうした下位の国のための大会もしっかりとあるのです。

ところで、日本のフットサルも発展していると思わせる出来事がありました。今年7月に行われたAFCフットサルクラブ選手権で、名古屋オーシャンズがイランのクラブを破り、初優勝を果たしたのです。日本にフットサルリーグ「Fリーグ」ができて4年目。こうした成果にも目を向けていきたいところです。
Nagoya Oceans crowned champions
http://ja.wikipedia.org/wiki/AFCフットサルクラブ選手権



AFCが“稼げる”大会

さて、この代表とクラブチームの大会を開催・運営することで、AFCはお金を稼いでいます。収入源として主に「チケット収入」「テレビ放映権収入」「スポンサー収入」などが挙げられるでしょう。そうした“稼げる”大会というのは現在はこんなところでしょうか。

代表
FIFAワールドカップ・アジア地区予選
AFCアジアカップ
・オリンピック・アジア地区予選
クラブ
AFCチャンピオンズリーグ(ACL)

さきのAFCアジアカップ2011のデータがあります。これによると、アジアカップ2011はアジア太平洋地域をはじめ、ヨーロッパ、北アメリカ、さらには北アフリカの80カ国にテレビ放映され、48400万人の視聴者がいたとのこと。こうした莫大な視聴者数を背景に、AFCはチケット収入・テレビ放映権収入・スポンサー収入を獲得しているのですね。
Japan, China, Korea Rep top viewership markets

また、アジアカップ2011の日本vsオーストラリアの決勝戦では、世界最多の51カメラでの中継が行われました。これ自体が凄い意味を持つものではないでしょうが、各放送局のアジアカップへの期待の高さが伺えます。
World-first awaits global television audience

クラブのACLにも大きな期待がかけられていると感じるニュースがありました。アジアカップ2011後の3月に、北アメリカでもACLの放送が始まるというニュースです。アメリカのOne World Sportsというアジアのスポーツにフォーカスした英語の放送局によるもので、ACLを長期的に放送していきたいという意向を示しています。

いくつかのニュースから、これらの大会をより大きくさせることでAFCがお金を稼ごうとしていることがわかります。なかなか額までは調べることができないのですが、どなたかご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひとも情報提供をお願い致します。







Development(普及・育成)に使う


AFCは大会運営によって稼いだお金を、普及・育成に使っています。

これはあまり日本で知られていないところですね(世界的にかもしれませんが)。その理由はおそらく、日本(各国)は国単位で勝手に普及と育成をやっているからだと思います。「日本をサッカー強豪国にしたい。そのための活動が日本の幸福につながる」そう思った日本人の集団が優秀な人材を集め、色々と勉強したのちJリーグを作り、日本国内のサッカー機運を高め、W杯に出て勝ち進んでいく。それをほぼ全て自前で達成しているため、AFCから普及・育成の支援をもらっていこうという発想が内部になかったのでしょう。もちろん、日本が経済的にとても豊かな国であること、その頃にAFCが今ほど大きな組織でなかったことも要因だろうとは思いますが。

しかし、アジアは広大で、発展途上にある国が多数あります。経済的にサッカーの普及が難しい状況にある国も多いのです。そこで、AFCがその事情を汲み取って、適切な支援を行うことでアジアでのサッカーの価値向上を図ろうというのがこのDevelopmentプログラムです。

既に世界的なスポーツと言っていいサッカーですが、まだまだ盛んに行われていない地域は沢山あります。そうしたところにサッカーを根付かせていくことで、市場としてのサッカー圏を広げると同時に、国家間の競争を活発にしアジア地域のサッカーの全体的なレベルを上げて行くという狙いが読み取れます。


AFCDevelopmentプログラムとして5つを挙げています。

Vision Asia
AID 27
Grassroots & Youth
Educational Courses/Seminar
Project Future


Vision Asia

まず、AFCはアジア全体を覆う戦略を策定しています。Vision Asiaとは、簡単にいえば「すべての面においてアジアのサッカーレベルを向上させるためのコンサルティング・プラン」です。いつの日かアジアからW杯優勝国を出すという壮大な目的の下に、2003年に公開されました。

サッカーをピッチの選手たちのように11の要素に分け、それらすべてのレベルを順を追って整備・向上させていくというプランになっています。上の方が整備の優先順位が高いという解釈で良いかと思います。逆に言えば、サッカーの世界的な専門家(当事者)はサッカーをこのように分割して見ていることを示していますね。このような視点で見れば、あなたも今日からサッカー連盟の人です!

Phase 1:各国協会
Phase 2:男子サッカー、レフェリー、指導者、スポーツ医学
Phase 3:グラスルーツ(普及)
Phase 4:マーケティング、メディア、ファン
Phase 5:フットサル、女子サッカー

各国協会からのリクエストに応じて視察団(コンサルタントみたいなものですかね)を派遣、現地調査をした上で、その土地に合った発展プランを作成し、実行させる。そういったプロセスになっているようです。

2008年のタイ・プロジェクトを例に挙げましょう。タイサッカー協会がAFCVision Asiaプログラムを要請し、AFCはそれを受諾。AFCは視察団を現地に派遣(http://www.the-afc.com/jp/vision-thailand/17943 を参照)、どのような環境にサッカーを置いている国か、詳細にレポートします。そしてその後、AFCはタイサッカー協会に向けてワークショップを開催し、タイサッカー全体の発展に向けて共に動き出すという流れです(http://www.the-afc.com/jp/football-development/vision-asia/19597 を参照、視察からワークショップ開催まで4ヶ月かけていますね)。タイの場合、バンコク郊外にあるチョンブリという県でプログラムが実施されましたが、Phase12に関しては良い評価がなされ、Phase3のグラスルーツ(普及)に関するプログラムになりました。結論として、タイにはまず普及・若手育成の評議会がないためにそれを創設し、またその実行部隊がないためその組織も作るということになったようです。2つ目についてはタイの学校教育に着目し、U11からU13のクラス対抗のサッカーリーグ、U11からU13の学校対抗のサッカーリーグの創設を提案し、その運営の支援をしています。お話してくれたAFCの職員の方は「その土地に合った」普及を行うことを何よりも大切にしていると仰っていましたが、その姿勢が垣間見えるプログラムです。
チョンブリでのプログラムは成功を収めたようで、その後タイサッカー協会とAFCはヴィジョン・タイを延長させ、プーケットとコン・カエンという2地域でも新たなプログラムが実行されているようです。

ヴィジョン・タイのレポートの他、様々なプログラムはこちらから見られます。



AID 27

AID27とは、AFCに加盟する協会のうち、経済的にも苦しい下半分の国に対して補助金を供給するプログラムです。その用途はDevelopmentに限られており、
  良いコーチを雇う給料
  教育面を強化するための資金
  スタッフを雇う給料の補助
  ユース年代もしくはU13U14世代の代表の国際大会への参加数を増やす
これらの場合に財政的援助をしようとするものです。

パキスタンの女子サッカー振興の例があります。AID27によりフルタイムで女子サッカー専任のスタッフを雇用することができ、そこから17チームの女子サッカーリーグの創設につながったと書かれています。



Grassroots & Youth

Vision Asiaのプログラムに各国のグラスルーツ普及があるので、それとは別に、国際大会の開催をするものです。

U13U14のフェスティバル(この年代ではCompetitionという競争的な用語でなく、フェスティバルという楽しいお祭りを感じさせる用語を使おうということになっています)を開催しています。男子は5都市、女子は2都市で毎年開催されています。

参考に2010年に行われたU13ガールズフェスティバルの記事を。


Educational Courses/Seminar

そのままです。割愛!w


Project Future

これはアジアから優秀なレフェリー、コーチを輩出しようというエリート教育プログラムで、U25のレフェリー、U30のコーチを集めて様々な経験をさせています。





おまけ:④今後のアジアサッカー論点


さて、AFCが今やっていることをCompetitionDevelopment2方面からまとめてきましたが、それでは僕らは今後、どういったことに注目し、議論を展開していけばいいのでしょうか。最後に論点を提示しようと思います。


・アジアから世界の強豪国を作り上げることと、アジア全体のレベルを上げること、どちらを優先すべきか?

これはAFCからするとジレンマに陥りそうな頭の痛い議題です。基本的な考えとして、サッカーは同じくらい強い相手と切磋琢磨したり、自分よりも強い相手に挑戦することでレベルアップしていくはずです。日本が毎回10-0くらいで圧勝してしまう相手とばかり試合をしていても、自分たちより強いスペインやブラジルを倒せるようになるとは考えないですよね。アジアサッカーの世界におけるプレゼンスを高めるためにはW杯で優勝を争えるくらいのチームを輩出することが欠かせませんが、その有力候補である日本やオーストラリアや韓国がレベルアップしていくための環境を充分に用意できているでしょうか。

日本は1月のアジアカップで韓国、オーストラリアと非常に競争的で良い環境のなか試合をすることができました。ただしそれは、4年に1度のアジアカップで、さらに決勝まで勝ち進むことでやっと得られた環境です。日本が世界の強豪国へと成長するためには、もっと日常的に韓国、オーストラリアクラスの相手と試合をするべきなのではないでしょうか?

逆の観点からいうと、例えば他のアジアの国にとって、日本は「自分よりも強い相手」であり、またとないレベルアップの機会になっています。そうした機会を多数作ることでアジア全体がレベルアップし、競争的になり、それが日本などの強豪国に日常的なレベルアップの機会を与える。確かにそれは充分な説得力があります。しかしそれは遠大な計画で、世界のサッカーのレベルアップのスピードは、それを待ってくれるのでしょうか?

もちろん実際にはどちらか一方の路線を取るということではなく、バランスの問題です。Competitionの新設や出場権をめぐる制度変更から、AFCがこれについて試行錯誤していることが読み取れます。AFCチャレンジカップの創設はアジア下位に競争的な機会を与えてアジア全体のレベルアップを図るものですし、W杯のアジア予選は1次、2次、3次、最終と幾重にも予選を重ねることで予選リーグ内でのレベルを均衡させることができ、同時に強豪国にとっても弱小国との試合数を減らすことができる制度であると言えましょう。

実力差がありすぎる試合をなくすのと、弱小国の試合数の確保と、強い相手とやることでのレベルアップの機会をどのように構成していくか。普段の日本代表を見る目線を少し下げてみると、いろいろと面白いことが考えられます。




先日の北朝鮮は、金正日総書記の意向を主な理由として、2006年ドイツW杯のアジア予選まで、国際試合への参加を極端に減らしていました。そのためFIFAランキングもとても低いものだったのですが、そのドイツW杯アジア予選で最終予選まで残ることができ(大黒のロスタイムでのゴールは記憶に新しいのでは)AFCチャレンジカップに2008年から参加し3位、2010年大会では優勝を果たします。また南アフリカW杯アジア予選を勝ち抜きW杯出場を果たしたのもこの年です。2010年のAFCチャレンジカップ優勝により今年のAFCアジアカップにも出場することもできました。

これらを見ると、北朝鮮代表は競争的な試合をたくさんこなしたことでレベルが上がった、と説明することができるのではないでしょうか。AFCチャレンジカップの創設など、Competitionの整備によって強さが目立ってきた感のあるチームです。こうしたことは、北朝鮮の政治的な一切を置けば、アジア全体のレベルアップとして非常に歓迎すべきことなのだと思います。




すごく長くなりましたが、AFCの大まかな活動を紹介しました。次は今後のアジアにとって大きな柱となっていくであろう、ACLの改革についてなどやりたいですね。AFCの年間予算は40〜50億円で、日本サッカー協会の年間200〜250億円(!)と比べると非常に小さい規模でやりくりしているのですが、ACLについては賞金を増額するなど頑張っているのです。

あとは、ヨーロッパのビッグクラブによるアジアサッカー普及活動との兼ね合いですね。近年はアジアツアーはすっかり恒例になりましたが、そこからさらに発展させて活動を行うクラブも出てきています。


ここまで読んでくれた皆様に感謝!
そして重ねて、貴重な機会を作ってくださった平田先生と、AFC職員の皆様に感謝いたします。