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『ウェアラブルは何を変えるのか』(佐々木俊尚、Kindle版)を読んだ。
ウェアラブルとは「身に着けることが可能である」という意味であり、いま話題のウェアラブル端末グーグル・グラスやテレパシー・ワンなどがこれまでの機械と変わるのはその点だけと言ってもいい。
けれどもウェアラブルは機械の目覚ましい発展の上に現れた、「機械との共生の未来を感じさせるムーブメント」と解釈できる。筆者は本書のなかで「私はウェアラブルが、遠くない将来に電子デバイスの主流になっていくと考えています。」とまで述べる。そんなウェアラブルをよく知るために本書はすごく良いインプットの機会を提供してくれる。これが389円って、安すぎませんか?
筆者によるとウェアラブルが電子デバイスの主流になっていく理由は「ウェアラブルが、身体とインターネットをダイレクトに接続させる基盤となっていくから」であるという。確かにSF的な未来には身体に機械が埋め込まれているのが相場だが、まだあれに遠い未来感を覚えてしまっている我々を1ステップ近づけてくれるのは、身体に着いていることを忘れてしまうような機械なのだろう。
ウェアラブル発展の4つのキーポイント
筆者はウェアラブルが電子デバイスの主流になっていくためのキーポイントを4つ挙げている。
①ウェアラブルに適した新しいユーザー体験(UX)が出現する
②センサーによって身体や物理空間がダイレクトにネットに接続される
③ネットからのフィードバックを、コンテキストに沿って身体や物理空間が受け取る
④それによって私たちの身体や物理空間は、「モノのインターネット」が合体されていく
①ウェアラブルに適した新しいユーザー体験(UX)が出現する
②センサーによって身体や物理空間がダイレクトにネットに接続される
③ネットからのフィードバックを、コンテキストに沿って身体や物理空間が受け取る
④それによって私たちの身体や物理空間は、「モノのインターネット」が合体されていく
僕はいまNIKEのFuelBand SEというフィットネス系のウェアラブル端末を毎日身に着けているが、この商品は4つのキーポイントを非常に丁寧にクリアしていると感じる。FuelBandは毎日の運動を記録する3軸センサー付き(20〜30cm腕を動かすだけでも反応してくれる精度である)腕時計型デバイスで、独自のFuelという単位によって、歩数やカロリー計よりも感覚的に非常に精確に「自分は今日どれくらい運動(行動)したのか」のフィードバックをくれる。これによって毎日の徒歩通勤がゲーム感覚になったり、もう少しアクティブになろうというモチベーションになったりしている。これが①と②のクリア。
さらにはiPhoneアプリと連携ができ、自分の運動データがリアルタイムで視覚的に分かりやすく表示されていく。SNSとの連携により自分の運動データをオープンにしたり、友達と日々のFuelを競ったりできる。これは意外に高いモチベーションになる。いつの間にか僕の生活にはこういったデバイスが自然に入っていき、健康という領域では彼らのくれる情報も大切に日々を生きていくことになる。これで③と④をクリアする。①②に比べれば③④はやや弱く、今後の進化に期待するところだろう。
本書では
1.極小チップやブルートゥースLEなど超小型化を推し進める技術発展、コントローラとしてのスマートフォンの普及で「モノのインターネット」世界が広がること、
2.デジタル情報をデジタルのまま見せるのではなく、実際に触れることの可能な、それによって情報を操作できるインタフェースという「タンジブル・ビット」概念の紹介、
3.Googleが特許を新生しているジェスチャー操作の進化、
4.私たちが(コンテキストに沿って)何を求めているかを、デバイス同士がお互いに通信することで勝手に分析・判断を下して有益な情報を提供してくれる「アンビエント・インテリジェンス」世界の紹介、
1.極小チップやブルートゥースLEなど超小型化を推し進める技術発展、コントローラとしてのスマートフォンの普及で「モノのインターネット」世界が広がること、
2.デジタル情報をデジタルのまま見せるのではなく、実際に触れることの可能な、それによって情報を操作できるインタフェースという「タンジブル・ビット」概念の紹介、
3.Googleが特許を新生しているジェスチャー操作の進化、
4.私たちが(コンテキストに沿って)何を求めているかを、デバイス同士がお互いに通信することで勝手に分析・判断を下して有益な情報を提供してくれる「アンビエント・インテリジェンス」世界の紹介、
これらの提示によってウェアラブルなデバイスが実現することを述べている。それぞれ非常に面白い論点で、また人間の生き方を問われる深い問いを投げかけてくれる。上の各用語についてはぜひ実際に読んで知ってほしい。
「データを取られてて気持ち悪い」をどう解決するか
センサーやウェアラブル端末の未来を考えるにあたっては、ひとつ「プライバシー」の問題が大きく立ちはだかっている。自分の詳細な情報をオープンにしてしまうことのリスク、また写真を撮るなどでは知らず知らず他人を巻き込んでしまうことなどのリスクがある。現行の個人情報保護法に抵触しない範囲でも、例えば店内カメラを解析し自分が「5日前にも来店し、シャツ売り場を見たけど買わないで帰った人」であると知られた上で接客対応などされたら、誰だって気持ち悪いと感じてしまう領域がある。
筆者はこの「気持ち悪さ」に特効薬はないが、対処療法があると述べている。それはお客さんに「利便性」を十分に与えてあげることだという。マーケティングデータに使いますなどと本人の向こう側に行ってしまうだけでなく、ちゃんと本人に良いフィードバックを与えてあげられれば気持ち悪さはいくぶん解消できるというのだ。
僕はこの考えに感覚的にとても賛同できる。振り返ってみれば、得体の知れない気持ち悪さを克服してきたのはいつも自身の快適さだったように思う。「なんだか嫌だ」という理由でLINEを使っていなかった自分が今では思い出せないし、NIKEのFuelBandは僕の毎日の運動量や消費カロリー、友達情報をクラウドで記録し続けている。
ふと見た時に「お〜今日のノルマをクリアしてる!よく動いたなあ」とか「あっこの5日間は全然動いてない!ちょっと遠くまで歩きに行こう」と感じさせてくれるフィードバックは、情報をあげるに十分と思っていたりする。僕自身のフィットネス情報は、少なくともクレジットカード情報よりは直接被害のない情報かな、とも。もちろん境界線は人によって様々で、だからこそ様々なウェアラブル端末が世に出る意味がある。
スポーツの価値を今こそ
筆者はウェアラブルが普及するポイントとなるのは恐らくフィットネス分野であると睨んでおり、僕も同意見だ。いきなり体に埋め込んで生活すべてを記録してもいいよと言えるほど、僕はまだ機械と仲が良くない。しかしフィットネス分野に限っては、僕の生活向上のために僕の手の届かないところの情報をくれる良き「パートナー」になってくれている。着けてふた月ほど経つが、社員証を忘れたことはあっても、FuelBandを着け忘れたことはない。というか着け続けていたら、普段は着けていることを感じないようになった。持つことが楽しいからであろう。
そしてこの「フィットネス」と「楽しい」をつなぐのがゲーミフィケーションであり、僕の好きなスポーツであるように思う。まだまだ多くの人にとって運動はできればあまりやりたくない、苦しいものと認識されている。スポーツが本来的に持つ「日常からの逃避」や現代の「競技性」こういったものをうまく活用して人々のフィットネスを向上させる。これがビジネスでできれば、スポーツはただTVで観るだけのものじゃない、辛さや我慢や感動を売り続けるだけのものでもない、人々の生活を楽しみながら良くするものだと示すことができる。そういった絶好のチャンスが到来しつつあると思う。
この点FuelBandは個人のモチベーションを高める様々なゲーム的仕掛け(毎日のゴール設定、達成時のセレブレーション、動いていないときの叱咤激励)、友人と競争できるソーシャルな仕掛けが満載されており、ややアクティブな人寄りではあるものの人々の生活にスポーツを溶けこませることに上手く成功していると思う。これを越えるのは容易ではない。
未来は僕らの手の中
『機械との競争』のアドバンスドチェスの面白い話も紹介されていた。現在のチェス界最強はプロの人間でも、その人間にほぼ負けなくなっているコンピュータでもなく、コンピュータの打つチェス(ソフトウェアの裏側についてだと思う)をよく理解したアマチュア人間とコンピュータのコンビなのだという話だ。人間がコンピュータのできることをよく理解し友人のごとく受け入れるとより良い未来が待っているのだという、希望に溢れた示唆である。
ウェアラブルはこの機械と人間の共生の未来をけっこう鮮明に描けるようにしてくれそうだ。
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