1月6日に、3月の開幕戦からJリーグがタイ、インドネシア、ベトナム、マレーシアの4カ国の地上波テレビで毎週放送される(うち月2回は生中継)ことが決まった、というニュースが流れました。続いて2月17日、Jリーグがタイ・プレミアリーグと連携協定を締結。選手の移籍の促進、新たなスポンサー獲得を目指すと報じられました。
これらは日本のスポーツビジネスにとって注目すべき流れであると思います。なぜなら、こうして日本のスポーツ・コンテンツが戦略的に海外に輸出しようとしたケースは今まで皆無と言っていいからです。
今回は、加速しているようにみえる日本サッカーの東南アジア進出を、「個人(選手・指導者など)」「組織(Jクラブ・リーグ・協会など)」の2つの見方からまとめようと思います。
※その前に「東南アジア」について。
「東南アジア」とは、中国より南、バングラデシュより東のアジア地域を指し、ミャンマー・タイ・ベトナム・ラオス・カンボジア・マレーシア・シンガポール・フィリピン・インドネシア・ブルネイの諸国を含む、と『Wikipedia』『三省堂 大辞林』にはあります。
この東南アジアにおいてJリーグの地上波放送がタイ・インドネシア・ベトナム・マレーシアの4カ国なのはなぜかということですが、人口を見てみると東南アジア全体の70%ほどの4億人をカバーすることになり、なるほどと納得させられる数字です。
1.インドネシア:2億3000万人
2.フィリピン:9400万人
3.ベトナム:8400万人
4.タイ:6600万人
5.ミャンマー:5000万人
6.マレーシア:2700万人
7.カンボジア:1500万人
8.ラオス:600万人
9.シンガポール:500万人
10.ブルネイ:40万人
【「個人」の東南アジア進出】
「個人」というレイヤーで見た場合、Jリーガーが東南アジアに進出することは近年急増し、珍しくなくなりました。先日引退した元ベガルタ仙台の財前宣之が2009年にタイへ移籍したことを草分け的存在として、中堅のJリーガーが次々と東南アジアのクラブへ活躍の場を求め始めました。ジュビロやヴェルディで活躍していた河村崇大は現在もタイでプレーしています。また先日引退をした元日本代表DFの宮本恒靖にもタイのクラブへの移籍話がありましたね。また、アルビレックス新潟は、シンガポールの国内リーグであるSリーグにアルビレックス新潟シンガポールというチームを2004年に創設し参戦しています。
未確認ですが、タイでプレーしている日本人選手の数はすでに50人を超えているというツイートを見かけたこともあります。日本人選手の実績が質量ともに重なってくることにより、東南アジアは選手にとって身近になりつつあるようです。
選手以外はどうかというと、指導者の東南アジア進出もここ数年で活発になってきていることが、日本サッカー協会のレポートから読み取れます。日本サッカー協会は「アジアを引っ張るリーダーとして、アジアのサッカーの普及・発展に貢献したい」考えを示し、代表監督・ユース世代の監督・育成コーチなどを様々な国に送り込んでいます。またここにはない、個人の判断での動きというのは相当数あるでしょうし、岡田武史元日本代表監督のように中国に挑戦する人たちも増えてくると思います。
【「組織」の東南アジア進出】
「組織」というレイヤーで見た場合、まずは「日本代表」「Jリーグ」「Jクラブ」といった層に分解することで分かりやすくなると思います。
1.日本代表
「日本代表」は日本サッカーが最も分かりやすい形で世界に発信しているコンテンツです。しかも非常に効果的。プロリーグを設立してから5年でW杯に出場するなど非常に急速な発展を見せた日本はそれ自体で注目に値する国ではありますが、一昨年のW杯のグループリーグ突破や昨年のアジアカップ優勝などの活躍は、世界中に良く映っているようです。それはもちろん東南アジアでも同じようで、親日という背景やアジアのトップとして世界と伍している構図が日本代表の注目を上げているのだと考えられます。昨年9月にマレーシアにあるAFC(アジアサッカー連盟)を訪問したのですが、日本の活躍をアジアの成果として捉え、誇りに感じているというお話が多くあったことを覚えています。
2.Jクラブ
順番が前後しますが、「Jクラブ」はなかなか東南アジアへ進出できない、難しい立ち位置にあると言えるでしょう。地域密着という理念を掲げて存在しているクラブである以上、他国へファン増を求めて進出することには「まずホームタウンで集客しろよ!」といった大きな反発が予想されます。チェルシーやマンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリーやバルセロナといった欧州のクラブは毎年プレシーズンの時期にアジアツアーを敢行し、新たなファンやプレシーズンマッチの入場料収入を獲得する「出稼ぎ」に来る光景は珍しくなくなりました。けれどもこれは既に世界中にファンが散らばっているようなグローバルクラブにおいて可能なことに思え、Jクラブが同じことをできる体力はないでしょう。今後Jクラブが東南アジアに進出するとしたら、それは
①ACLで戦う
①ACLで戦う
②アルビレックス新潟シンガポールのように『支部』的なチームを置く
③丁度いい(自分たちより少し強い)相手としてプレシーズンマッチに呼ばれる
④東南アジア人がクラブにいるので、その凱旋試合を組む
といった、ややグローバルなクラブとは異なる戦略と環境づくりが必要でしょう。③に関してはベガルタ仙台がバンコクで行われる親善試合「トヨタプレミアカップ2011」に招待されており、タイの2011年の3冠王者ブリラム・ユナイテッドと18日に対戦するようです。
http://www.newsclip.be/news/2012213_033635.html
http://www.newsclip.be/news/2012213_033635.html
僕は②と④に可能性を感じますね。
3.Jリーグ
そして「Jリーグ」はまさに今回のエントリで取り上げたいところです。まずはニュースをいくつか読んでみましょう。
今季のJリーグが3月の開幕戦から東南アジア4カ国の地上波テレビで毎週放送される。タイ、インドネシア、ベトナム、マレーシアの4カ国との間で正式に交渉がまとまり、近く理事会に報告される。
放映権料は当面無料だが、代わりにJリーグは現地放送局側からCM枠やスポンサー枠を獲得することで収入を得る。すでにアジア市場を重視する日本企業への打診を始めている。映像はJリーグ側が制作し、現地で実況・解説などを加える。月2回は生中継もする。「日本のスポーツコンテンツを戦略的に海外に 売り出すのは初めての試みではないか。将来的に放送を希望する局が増えれば、市場原理によって放映権料の方もビジネスになっていく。まずは市場を開拓する 意識で取り組みたい」とJリーグ幹部は話す。
これまでもJリーグの試合は、衛星放送などでは有料で海外放送されていた。しかし、この分野では欧州勢の人気が圧倒的。例えば、英イングランドのプレミ アリーグは世界200カ国以上で放送され、リーグ所属の20クラブは海外向け放映の分配金だけで、それぞれ年間約1800万ポンド(約21億5千万円)を 受け取る。Jリーグが得ている放映権料は、リーグの年間収入120億円余りの1%未満にとどまっている。
ただ、東南アジアでは日本代表の活躍や、東南アジア各国でプレーする日本人選手の影響で、日本サッカーの認知度や評価が高まっており、地上波での無料放送なら新たに参入する余地があると見て、Jリーグは交渉を続けていた。
Jリーグを漫画やアニメと並ぶいわゆる「クールジャパン」にしていこうという狙いもある。関西学院大の奥野卓司教授(情報人類学)は「韓流ドラマは国の 後押しで海外進出したが、Jリーグの場合、チームや選手の活躍といった自然発生的な広がりが背景にあることが、日本の漫画やアニメと同じで強みになり得る。格好いい存在として日本という国や日本製品のイメージアップにつながる可能性は十分にある」と話す。(編集委員・忠鉢信一)
NHK NEWSweb:Jリーグ タイのリーグと協定
サッカーJリーグは、新たな市場で選手の移籍の促進やスポンサーの獲得を目指そうと、17日、海外のリーグで初めてタイの国内リーグと協定を結びました。
開幕から20年を迎えたJリーグは、チーム数が40にまで増え、増大する運営費の確保や、選手の移籍先の開拓が課題となっていて、初の海外の提携先として、日系企業が多く進出し、日本とのつながりも深いタイを選びました。
首都バンコクにあるホテルの会場では、17日、Jリーグの大東和美チェアマンと、タイプレミアリーグのビチット・チェアマンが協定書を交換しました。
記者会見で大東チェアマンは「日本がさらに強くなるためにも、アジアのサッカーのレベルを引き上げていくことが必要だ。日本が持つノウハウを惜しみなく伝えていきたい」と述べました。
両リーグの間では今後、親善試合の開催や選手や審判などの交流、それに選手の移籍の促進などを行っていくほか、タイでは、今シーズンからテレビでJリーグの試合を放送するということです。
Jリーグは、今後、インドネシアやマレーシア、それにベトナムとも同じような協定を結び、さらにネットワークを広げていくことにしています。
首都バンコクにあるホテルの会場では、17日、Jリーグの大東和美チェアマンと、タイプレミアリーグのビチット・チェアマンが協定書を交換しました。
記者会見で大東チェアマンは「日本がさらに強くなるためにも、アジアのサッカーのレベルを引き上げていくことが必要だ。日本が持つノウハウを惜しみなく伝えていきたい」と述べました。
両リーグの間では今後、親善試合の開催や選手や審判などの交流、それに選手の移籍の促進などを行っていくほか、タイでは、今シーズンからテレビでJリーグの試合を放送するということです。
Jリーグは、今後、インドネシアやマレーシア、それにベトナムとも同じような協定を結び、さらにネットワークを広げていくことにしています。
Jリーグ公式サイト:タイプレミアリーグ(TPL)とのパートナーシップ協定締結について
パートナーシップ協定内容
(1)両国におけるサッカーならびにリーグの発展に必要な情報の交換
(2)リーグやクラブの運営管理に関するノウハウの共有、セミナーの開催
(3)コーチ、審判、選手、医療、競技運営、アカデミー、マーケティング事項に関する交流/視察/研修プログラムの実施
(4)両リーグ所属クラブ同士によるフレンドリーマッチの実施
(5)ユース世代の大会・フレンドリーマッチ、合同トレーニングキャンプ等の実施
(6)両国選手の相手国リーグでのプレー機会の創出、促進
(7)マーケティング領域における協力
(8)両国リーグの相手国での放送ならびに露出拡大に向けた協力
(9)クラブレベルでの提携の促進
(10)タイ国への社会貢献活動実施の協力
(2)リーグやクラブの運営管理に関するノウハウの共有、セミナーの開催
(3)コーチ、審判、選手、医療、競技運営、アカデミー、マーケティング事項に関する交流/視察/研修プログラムの実施
(4)両リーグ所属クラブ同士によるフレンドリーマッチの実施
(5)ユース世代の大会・フレンドリーマッチ、合同トレーニングキャンプ等の実施
(6)両国選手の相手国リーグでのプレー機会の創出、促進
(7)マーケティング領域における協力
(8)両国リーグの相手国での放送ならびに露出拡大に向けた協力
(9)クラブレベルでの提携の促進
(10)タイ国への社会貢献活動実施の協力
Jリーグの公開資料でJリーグの収支を見てみますと、収入がこの10年でほぼ変わらず伸び悩んでいる状況が読み取れます。基本的に黒字は出し続けているものの、リーグ運営の支出は10年前と比べ1.5倍に増加し、その分をクラブへの配分金や管理費を抑えることでカバーしているようです。
国内の観客動員や放映権など、収入が増加しない状況を踏まえて外へ新たな市場を求めるというのは、Jリーグに限らず日本の組織のマネジメントを考えたとき、自然のことと言えるでしょう。
Jリーグ公式サイトには、今回のタイとのパートナーシップ協定内容がありました。
中でも重要なものは、第一にはやはり、(7)マーケティング領域における協力があるのではないでしょうか。分かりやすいのは地上波テレビ放送で東南アジア企業からCM・スポンサー収入を得ることです。
Jリーグ側は「日本にスポンサードしている」という日本ブランドを東南アジア企業に提供します。「我々(東南アジアの新興企業)は先進国である日本へ進出した!」というアピールを東南アジアの人々に向けてできる環境を与えるのですね。
東南アジア側は逆に、「東南アジアに進出したい日本企業」にPRの環境を提供できます。Jリーグとしてはこの狙いも充分持っているでしょう。どちらの国でも大人気のサッカーというメディアを通じて両国の経済活動を活発化させようという絵が見えます。また、そもそも国内のサッカー環境はまだまだ未整備の東南アジア諸国にとって、Jリーグが(1)(2)(3)のようなノウハウを存分に提供してくれることは期待されているものと思いますね。
第二には、連携がうまく回り始めた暁には、更に深い協力体制を築いていける可能性を感じることです。
東南アジア4カ国でのテレビ放映権料は、当面は無料。これを有料にしていく施策が今後求められますが、その施策として「東南アジア選手の獲得」が肝になってくるでしょう。
今では日本でスポーツニュースに海外サッカーが流れることは当たり前になりましたが、そのきっかけは、1998年の中田英寿のセリエA・ペルージャへの移籍にあります。中田の出場試合を観たい人は多く、WOWOWやスカパーなどの有料放送局を中心にテレビ局は試合の放映権を競って購入。日本人のサッカーへの関心度やリテラシーは急速に高まりました。東南アジア4カ国でのテレビ放映権料は、当面は無料。これを有料にしていく施策が今後求められますが、その施策として「東南アジア選手の獲得」が肝になってくるでしょう。
どこかのJクラブが東南アジア人選手を獲得し活躍させれば、きっとそのクラブは東南アジアにおいて注目度が最も高い人気クラブとなるでしょう。そのクラブの試合放送は多くの企業がスポンサーに名乗りを上げ、複数のテレビ局が放映権を獲得したいと思っている。そんな状況ができて、初めて放映権料は有料となっていきます。
民放での放送が決まり、パートナーシップ協定が締結されるところまできましたが、現状においてこのJリーグの東南アジア進出戦略には課題が多くあります。
まず、Jリーグはすでに現地で放映されているイングランド・プレミアリーグ、スペイン・リーガエスパニョーラ、欧州チャンピオンズリーグなどとコンテンツの面白さにおいて競争しなければなりません。世界のトップのレベルにあるとはいえないJリーグが、これらの魅力あるコンテンツに勝てる要素は何でしょうか。現状ではほぼ見えません。
これは、先ほどの「東南アジア人選手の獲得」が大きな意味を持ってくる理由です。中田英寿の例から、自国選手がレベルの高い舞台で活躍することには大きな関心が寄せられることが分かりますが、東南アジアの国々のサッカー選手のレベルは、世界でいえば上の下くらいまで来た感のある日本に比べまだまだ低いのが現状です。FIFAランキングで言えば100位から150位くらいの弱小国。20位くらいの日本の選手のように、欧州へ行って結構な割合で活躍する環境にはない。東南アジア人と欧州リーグは、繋がっていないのです。
Jリーグが欧州リーグに勝てる部分はここです。「断絶のある東南アジアと欧州をJリーグという回路で繋ぐ」ことができます。東南アジアのサッカー選手に、Jリーグというハイレベルのリーグに移籍し活躍できる、さらにはJリーグを踏み台に欧州のトップリーグまでステップアップしていく夢を与える。この魅力をJリーグが持てるなら、何にも変え難いアドバンテージだと思います。
ただし、現状での東南アジア人選手がJリーグに行ってすぐ活躍できるかというと、実力・言語・その他様々な環境から難しいものがあります。その課題に取り組んでいるのが、Jリーグ元年からガンバ大阪で12年間在籍し、昨年はタイでプレーしていた木場昌雄氏です。木場氏はタイでプレーした際に、タイ人選手の身体能力の高さ、また環境面でそれらの資質を伸ばせていないことを感じ、昨年9月に東南アジアからJリーガーを誕生させるため、「Japan Dream Football Association(以下JDFA)」という社団法人を立ち上げ活動しています。東南アジアでサッカー教室を開催し、スカウティングを行い、日本の代理人やJクラブなどへ選手獲得を働きかけていく。JDFAの活動はNIKE Japanなどが支援しており、今後こうした東南アジア選手への注目度は高まっていくものと思います。実を結ぶことを期待したいです。
Jリーグの戦略は、こうしたJクラブのそれぞれの活動や、木場氏が創設したJDFAなど個々人の活動の成果に依存しており、その点は「早急」や「場当たり的」との批判を免れないと思います。また、もし東南アジア選手を獲得し大人気となるクラブがあっても、Jリーグの放映権料は『均等分配』されますので、クラブの開拓努力はほぼ報われません。そんな状況では自分たちから東南アジア人選手を育て獲得するコストをかけようというクラブは現れないでしょう。しかしながら、「アジア全体のサッカーのレベルを上げることが、日本サッカーにとってのレベルアップにも繋がる」という立場を前提とした野心的な取り組みは、こんにちの日本になかなか発揮できていないリーダーシップを取ろうというもので、私はその点は高く評価したいです。
以上、日本サッカー(主にJリーグ)の東南アジア進出の動きをまとめてみました。今後の経済活動は人口40億人のアジア大陸にシフトするといった大きな予測があり、その時代の流れを追い、リードすべしといった態度を見せる組織が日本のスポーツ界にもあるんだということは、スポーツ好きな私にとってとても嬉しいことであります。東南アジアに旅行して、その先で現地の人たちとJリーグについて熱く語れるような日が来るかもしれないですね。
参考にした記事等です〜。勉強させて頂きありがとうございます。
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